当極楽寺は往古は紫雲山と呼べり。本尊阿弥陀如来を安置する当山の縁起を案ずるに、山名氏家系に因れば、往昔因幡国主山名義親で、法名は「極楽寺院殿剣江大宗庵禅安門」と詮す。天正元年11月29日夭折せられしを以って祖父山名禅定大弼致豊その追福として当寺を草創す。則ち紫雲山極楽寺と称号す。国中屈指の古刹なり。
然るに天神山在城の山名氏は、当時山陰道鎮撫使として入国したる羽柴秀吉に叛き、天正9年、これと戦を挑みしに戦い利あらず。忽ち敗北して城郭その他一物も余さず兵燹に罹り、尚その他寺屋敷その他の市街の建物も残さず、灰燼となりて烏有に帰せしめたり。
当山の堂宇も亦その厄に遭い、兵燹に罹りて灰燼に帰す。その他鐘楼伝来の宝器等悉く或は灰燼と化してその状洵に惨憺たるもの甚だしかりしが、仏日の光尽きず一体の本尊仏の如きは焔中を冒して難を鳥取玄忠寺に避け、安鎮し奉りたり。
その後今の堂宇を再建し、本尊仏を還迎し奉りて、荘厳を新たにし山号を荘厳山と改めたるものなり。往昔布施城が因幡国の屋形を迎えてその威風天地を払い城下又は殷賑を極めたりし時代には、寺院その他の数も多くして、仙林寺・功徳院・古学院・勝禅院・観音堂・仁王堂・阿弥陀寺・経水池・六地蔵・首塚・保比呂比の五輪・恵心僧都の像・同墓等ありし事古文献に現れたるも、今はその片鱗だに偲ぶこと能わず、僅かに土地の学名にその余韻を残すのみなり。